恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
あっという間に、車は私のアパート前に到着した。
本当にこれで終わりかぁ、と寂しい気持ちをぐっと飲み込んで、消化する。
今日が特別だったのだ。
終わったら、またいつも通りで当たり前、ちょっとお得な一日だっただけ。
路肩に停めて、東屋さんはさっさと運転席を下りて、後部シートに置いてあった私の荷物を出してくれている。
余り広い道路ではないから、長く停車できる状況でもないのだ。
私も慌てて助手席から降りて、駆け寄った。
手荷物と、ハンガーにかけてある昨日のスーツを受け取りながら、やっぱりどうしようもなく寂しくなって、振り切るように勢いをつけて顔を上げる。
「すみません。ありがとうございました、今日は、」
「ん、ああ。出張、お疲れ様。ゆっくり休んで」
一瞬、余所を見ていた東屋さんの目線が私に戻る。
だけどすぐさまあっさりと、彼は片手を上げてさっさと運転席に乗り込んでしまった。
せめて、イチゴ狩りのお礼をちゃんと言いたかったのに。
窓越しに追い払うように手を振られて、後ろ髪引かれる思いでアパートへと踵と返した。
疲れたな。
けど楽しかった。
うっかりスキップでもしてしまいそうなテンションで、アパートの敷地に足を踏み入れた瞬間、「紗世ちゃん」と声をかけられ驚いてつい悲鳴を上げる。
「え……京介くん?」
振り向くと、バツが悪そうな笑顔を浮かべて京介くんが立っていた。
「ご、ごめん。怖がらないで、ちょっと用があってきただけで」
「あ、ううん。驚いただけ……えっと……久しぶり」
酷い別れ方をした、あの日以来だ。
何の用だろう、と一瞬身構えたけれど、京介くんの様子はひどくおどおどしていて、逆に心配になるくらいだった。