恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
「何しょげてんの」
スニーカーの紐を結び終えた彼が、立ち上がって私の頭をぽんと叩いた。
「また来るわ。今日は紗世ちゃんも疲れてるだろうし」
優しくそう言ってくれる彼を見ていると、私はますますこの数時間の自分を鈍器で殴り倒してやりたくなってくる。
こんな優しい彼氏に、私はなんであんな態度しか取れなかったんだろう。
「なんかこっちこそごめんな。紗世ちゃんの方こそ初出勤で色々大変だったのに俺愚痴ばっか言っちゃった」
「そんなことないよ! 聞けて嬉しかった、うん」
それは本当だ。
力強く頷くと、彼はくしゃっと破顔する。
良かった、いつもの京介くんだ、とほっとして。
「ばいばい」
と互いに手を振って、彼を見送りバタンと扉が閉まるのを待って、私は深く溜息を吐く。
今より、約三時間前。
彼をここで出迎えた。
あのメッセージから三十分程経ってからのことだ。
彼も仕事上がりだったようで、この春から入った新人アルバイトのことで随分とストレスがたまっているようだった。
「もー、使えん奴でさ。わからんかったら自分で聞きに来いって」
「大変だね。でも初日だったら仕方ないよ、慣れない場所って怖いじゃない?」
まあ、私は比較的ずけずけ聞いちゃう方だけど。
聞かないで後で悩んだり失敗する方が怖い。
急いで作ったドライカレーと野菜スープを、二人で食べながら彼の店の新人の話を一頻り聞いた。
彼の店の新人は、少々引っ込み思案のようだ。
でもそこは、京介くんのが先輩なんだしもうちょい余裕もって。
「京介くんから、聞きやすいように声かけてあげたら?? そういう空気作ってあげるのも先輩の仕事じゃない?」
思ったことを、そのまま、ポロっと。
言ってから、しまったとすぐに思った。
彼の表情がムッと歪んだのがわかったからだ。