恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
「西原さん? すみません、私行かなくちゃ、」
「いいから。早く早く」
「えっ、ちょっ?」
ぐいぐいと引っ張る西原さんの手は、やけに強引だ。
これって絶対、わざとだよね?!
結局私は本部長室に向かうことは敵わず、西原さんに資料室に連れ込まれた。
「なんで私は行っちゃだめなんですか?」
資料集めは本当のようだ。
西原さんはメモを片手に棚に並んだファイルの背表紙を指で辿りながら、不服を前面に押し出す私を見て苦笑いをした。
「金曜、大変だったんだよね? 東屋くんから藤堂部長に連絡があって私は藤堂部長から聞いたんだけど……今のとこは春日住建からは何もないみたいだよ」
「え……ほんとですか?」
「うん。でも本部長には事前に報告しておこうってことで」
良かった、少しほっとした。
まだ月曜で、営業日に入ったばかりだからこれから何もないとは言えないけれど……即行でないということはほんの少し、田倉さんにも冷静さがあったのだろうかと、それを期待してしまう。
「とにかく今は……東屋くんに任せてって藤堂部長が言うからそれで従おう?」
「でも」
「大丈夫、ちゃんと考えてたみたい。春日住建の大工繋がりであの地域の工務店三件、顔つなぎして来たらしいから、今週中に契約に持ち込めるからそれで一応の体面は保てるって、部長が言ってた」
「え……」
え?
ちょっと待って。
いつの間に?
驚いて目を見開くと、西原さんがにっこり笑って頷いた。
ホントの話なんだ。
大工繋がりって……あの筋肉オジサンの群れ?!
あの宴会の時にもう、対策してたってこと?
田倉さんに放った東屋さんの言葉を思い出す。
こんな契約はいらないんですよ、って言った。
いらない、というよりももう端から当てにはしてなかったんだ、きっと。