恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
「ちょっと、一花さん! 半分持つってば!」
「いやいやいや無理です持たせられるわけないですよね何言ってんですか!」
絶対無理!
できるならうろうろしないでずっとデスクに座っててと言いたい。
揃えたずっしり重たい資料を、一人で抱え、西原さんと資料室を出る。
重い、確かに重いけど。
それにしても随分急な結婚退職ですね。
と尋ねた時の西原さんの反応を見てしまえば、絶対こんなもの持たせられない。
はにかみながら、両手を下腹部に当て微笑む。
その仕草が示すものは、たった一つだ。
「あのね、病気じゃないんだから大袈裟だって。全部っていったら無理だけど半分くらいは」
「だめです。見てる方が怖いですからお願いです言うこと聞いてください」
ぶるぶるぶる、と二の腕が震える。
なんとか西原さんのデスクまで運ばなければ、とよたよた廊下を進んでいれば、急にふっと手の中から資料の山が消えた。
「あ」
「何やってんの」
資料室にいる間に、話を終えて出てきていたらしい。
東屋さんが、私の手から資料を取り上げて立っていた。
「あ、東屋さん! あの、」
「さよさん。これどこに持ってくの? 」
「ごめんありがとう。私の机に運びたいんだけど……一花さんたら全部持っちゃうから」
さらっと私の声は無視して、彼は西原さんに尋ねながら隣に立ち二人並んで歩き出す。
私も気になって、当然後ろにくっついた。
「さよさんは重いもの持っちゃだめでしょう。俺でも一花でもいくらでも使って」
「そ、そうですよ! 私なんでもしますから」
「っつうか、さっさと公表しちゃえば。そしたら皆に手を借りれるじゃないですか」
話に混じりながら、つい東屋さんの横顔を伺ってしまう。