恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
「んなこと言っても、俺も正社員なったとこでそんな余裕ないし」
「あっ、そうだよね! ごめん、私も今日から新人だからつい」
そうだよね。
普通、皆自分の仕事熟さないといけないんだから、そこまで気を使ったりもしてられないものかもしれない。
職場によっても違うし、カフェなんてお客さんが多ければそれこそてんてこ舞いなんだろうし。
慌てて取り繕って笑うと、彼もちょっと表情を回復させ「そうか」と頷いた。
「そうだよな、紗世ちゃんも今日からだもんな。職場、どうだった?」
「まだ一日目だけど、なんとかなりそう。今のとこ、人間関係も良さそうだしみんな優しいよ」
「ふうん。どんなことすんの?」
「営業の先輩に今は教わってて、あと資料の作成とか。それからね」
話題がこちらに移ってくれてほっとして、職場であったことを少々テンション高めで話し始めた。
「いい人ばっかりだから良かったけど、やっぱ最初は緊張するからか、言葉遣い固くなってた気がする」
「紗世ちゃんってあんまり物怖じしないイメージだけどな、やっぱ緊張するんだ」
「するよそりゃ。人の顔覚えるのは相変わらず苦労しそうだし」
「出たな顔メモ」
「あ、綺麗な男ってメモしたら変な顔された」
「綺麗な男?」
「うん、指導係? してくれてる営業の人が、すっごく綺麗な人でね。イケメンって逆に特徴掴みづらいなって思ってたんだけど、その人結構わかりやすくて」
横顔限定だけど。
西原さんを目の前にした時の、あのやわらかい優しそうな顔。
やっぱ、好きな人なんだろうなあ。
すっごい好きなんだろうな、と思うと先輩ながらちょっと微笑ましい。
「へー。そんなイケメンが居るなんてちょっと心配」
「え? ああ、大丈夫大丈夫。その人多分好きな人いる感じ」
いらない心配だよー。
と、笑う私の頬に、突然指が触れた。