恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
「土産、何か買った?」

「いえ、まだ何も。結局余り見れなくて」

「迷子になるほど見てたくせに」

「それはっ!」


見てたのはお土産ではなく東屋さんであって、それで見たくないものを見てしまって凹んでいたから迷子になったのであって!
と、説明するわけにもいかず不貞腐れる。


「さよさんなんか、しっかり浮かれちゃって夫婦茶碗なんか買ってたけどな。藤堂部長まで一緒になってすっかり腑抜けてんな」

「そおなんですか」


くっくっ、と喉を鳴らして笑うその横顔を、つい観察してしまう。


西原さんと藤堂部長は、つい先日。
結婚と西原さんの退職予定を朝礼で報告した。


「何? じっと見て」

「え、あ! 別に……」

「別にって顔じゃないだろ。一花は口も目も喋り過ぎ」

「え」


目も、って。
ちょっと待ってただでさえぺら口なのに。


私は顔面で心の声まで語ってるのか。


「いつまでも過去のことで心配されんのも、なんか情けないんだけど?」


呆れた顔で肩を竦める。
どうせ何を思ってるのかバレバレなら、と口は正直になった。



「か、過去に」

「ん?」

「過去になってますか」


それとも、今でも忘れられないですか。
今でも変わらず好きですか。


「さあ?」


綺麗に作られた笑顔で、はぐらかされてしまった。
東屋さんの顔が正直に語るのは、西原さんを見つめている時だけみたいだ。


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