恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
「膨れんなよ。子供か」
「膨れてません」
「慰めてでもくれる気だった?」
ぱっと顔を上げた。
「勿論です。なんでも付き合いますよ」
私で何の慰めになるのか、自信はないけど。
落ち込んでるなら励ましたいし、気が晴れるまでなんでも付き合います。
真剣にそう思って言ったのに。
東屋さんの表情が、また意地悪を言う時みたいに黒くなる。
「女が男を慰める方法って、一つしかないと思うけどね」
「え」
いや、これは、黒いというよりも、妖艶。
私に伸びてきた手に気づかないくらいに、ぽかんと東屋さんの瞳に捕まっていて。
指先が、耳の後ろあたりの横髪を撫でていった時、びくっと肩が震えた。
私はどんな顔をしていたんだろう。
怖くもあったけど、目を離せないくらいに引きつけられてもいた。
ただ東屋さんには、怯えたようにだけ見えたのかもしれない。
すぐに指は離れていって、色香は空気に霧散する。
「……まあ、一花はお子様だけど」
「いたっ!」
色香の代わりに飛んで来たのは、ちょっと強めのデコピンだった。
「ひ、ひどっ、」
「簡単に慰めるなんて言うなよ」
「え、なんで、」
「もっとはっきり脅さないとわからない? 一度はあんなことされといて警戒緩すぎない?」
そう言うと、急に歩を早めた東屋さんが遠くなっていく。
慌てて追いかけようとして、背中越しに見えたのは西原さん達の姿だった。
駐車場に着いてしまったのだ。