恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
「ひとちゃん、何飲む? ビール苦手だったよね?」
池内さんはちゃっかりしっかり、東屋さんの横を陣取ってしまった。
何、あのナチュラルな流れでありながら、ばっちり周囲に牽制もしているような見事な手腕。
話ながら、さりげなく肩に触ったり。
見るな見るな見たら気になる、と思うのにどうしても視界の端っこに残したままになってしまう。
「梅酒でいいかな。ロックで頼、」
「ソーダ割でお願いします」
「えー、聞いてたの。上の空かと思ってた。了解ソーダ割ー」
「聞いてます」
もう歓迎会の時みたいにうっかり飲まされたりしないからね!
じろ、と糸ちゃんを睨んだら、へらっと笑って肩を竦めた。
「そんなに気になるなら東屋の隣さっさといっちゃえばよかったのに」
「べ、別に気になってるわけじゃ……って、糸ちゃんが無理矢理引っ張って隣に座らせたんじゃないですか」
「そうだっけ?」
悪びれず憎めないところがあると、段々わかって来てるけどやっぱり油断はできない人である。
「それにしても池内さんすげーな、完全にロックオンしてるなあれ」
ぴくっ、と私の耳が反応する。
そんな自分にも嫌気がさしてきた。
私、さっきからすごく性格悪いことばっかり考えてる気がする。近づいて欲しくない触って欲しくないってそんなことばっかりでもやもやもやもやしてる。
いやだ、もう。
目の前のお膳に集中しよう。
「池内さん、今飲み始めたとこでもう酔った演技入ってるよ。わかってるよ男の方もわかってるけど引っかかるんだよなああいうの。あんなおっぱい隣にあったら悪い気しないよなー」
糸ちゃんの実況中継はなんか生々しい。
男性の主観での中継だから余計なのかもしれないけどなんかヤダ。もう聞かない。