恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
彼女が東屋さんを追いかけてるとは限らない。
だけど、やっぱりそうとしか思えなくて、私は彼女の行く先に東屋さんがいると決めつけて後を追った。
ロビーを抜け、外に出ていく綺麗なうなじの、浴衣姿。
どうしよう、近づいたら二人並んで逢引見たいな雰囲気になってたら。
嫌だ。だめ。
東屋さんがふわふわお花を飛ばすのは、西原さんにだけだし。
でも西原さんは結婚するから。
じゃあ東屋さんは、そのうちだれかを好きになる?
すぐには無理でも、少しずつでも。
そんな予測の中に、勝手に自分を置いて身勝手な夢を見たくなる。
ああ、京介くんの言ったとおりだ。
いつまでも、無欲のままではいられない。
外に出ると、暗闇にライトアップされた庭園があり散策できるようになっていた。
どっちにいったんだろう、と迷っていると奥の方から東屋さんを呼ぶ池内さんの声が聞こえた。
近づいてはっきりと彼女の声が聞こえると、少しわかったことがある。
「あれー? 東屋さん? こっちじゃないのかなあ」
甘えるような声は、東屋さんを探しているのだと気付く。
少し、ほっとした。
庭園の中央を横断する形で遊歩道があり、ぽつぽつとガーデンライトが点在する。
大きな木がライトアップされていたり、ツリー型やアーチ型にLEDライトが飾られていて、ホテル上階の客室からでも楽しめるようになっているのだろうと思った。
……東屋さん、本当に外に出たのかな?
もしかしてただ単にトイレに行っただけだったり。
早とちりして追いかけてしまっただけだった?
急に恥ずかしくなって、居た堪れなくて引き返そうかと迷っていたら。
「ひゃっ、」
急に、近くの薔薇のアーチの死角から人影が出て来て、一瞬すくみ上った。
悲鳴をあげかけた私の口を、大きな手のひらが覆う。
「ごめん、ちょっと静かにして」
しー。
と、東屋さんの声が、すぐ耳元で囁かれる。
少し、お酒の匂いがした。