恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
暗がりで東屋さんの顔なんて、殆ど見えない。
ただ、本当にすぐ間近に顔がある、ということくらいで。
「声出さないで、見つかる。あいつまじしつこいから」
うんざりと疲れたような声だった。
こくこく、と頷いて静かにすることを約束すると、ゆっくりと手が私の口から離れていく。
静かにします。
しますけど。
心臓が騒ぎ過ぎて身が持ちそうにない。
「こっち」
囁く声でそう言われても、ここはライトアップされている場所から少し遠い上に、大きな木の影になっていて。
一層暗闇の深い場所。
すぐに見失ってしまいそうで、動くのも怖い。
「ま、待ってくださ、」
い。
と、言い終わる前に、手を取られていた。
誰に?
東屋さんしかここにはいない。
がさ、がさ、と草を踏む音。
多分池内さんから逃げる為にか、遊歩道から少し外れた場所を歩く。
なぜか、手を繋いで。
東屋さんと仕事をして、なんだかんだで一緒に行動したことは多いけれど、こんなことは一度もなくて、素振りもなくて。
「あ、あの」
「ん?」
頭はついていけないまま、足は逆らうことなくついていく。