恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
「暗いから、足元気を付けて」
「はい……ここ、どこですか」
「庭から随分離れたな」
暗さに慣れて、ぼんやりとしか見えなかった東屋さんの顔が少し目鼻立ちまで確認できるようになった。
間違いなく、東屋さん。
私の手を握っているのは。
その向こうに、薄く雲の張ったぼやけたお月様と、大きな木の枝が一振り、ざわざわと風に揺れる。
その光景に見惚れながら、ぼんやりと尋ねた。
「どこに行こうとしてたんですか?」
夢かなあ。
こんな場所で、二人きりになれるなんて。
「酔いが回りそうだったから煙草でも吸いに出ようかと思って、そしたら池内が追いかけてきたから隠れたら今度は一花がのこのこやってきて」
「のこのこ」
「そう、のこのこ」
また、ふっておかしそうに笑う音。
必死で追いかけて来たってバレてたら恥ずかしい……。
って、あれ?
「東屋さん、煙草吸うんですか」
「最近。学生の時以来かな……あった。灰皿」
また草を踏む。
数歩歩いたところに、ベンチと灰皿が見えそこで手は離れた。
灰皿の傍で、手に持っていた煙草の箱をとんとん、と指で弾く。
全然、煙草を吸う人っていうイメージじゃなかったけれど、その仕草を見るといつもよりずっと、男の人なのだと視覚から訴えられる。
「何、吸いたい?」
「いえ! 結構です! ただ、なんで急に吸い始めたのかなって」
「むしゃくしゃすることが多いと吸いたくなるんだよな。条件反射みたいなもん?」
それってやっぱり、西原さんの結婚が堪えてるから?
そう思ってしまうと、どうしようもなく苦しい。
私の気持ちもだけれど何より、東屋さんの気持ちがまだ、行き場もなく滞っているのかと思うと、苦しい。
「一花は何しに来たの」