恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
部屋の前で、開いた扉に隠れてキスを落として帰って行った。
あの人は、誰だろう。
ほんとに東屋さん?
中の人、変わった?
同室の西原さんと柳原さんは、まだ戻って来ていなくて少しほっとする。
だって、今何かを聞かれたら上手く答えられる自信がない。
ベッドに潜って一人悶えた。
落ち着こう。
ちょっと落ち着こう。
「すき」の返事は貰えてない。
でもいいんだ、最初から告白なんてまだするつもりなかったし。
「さよさん」をそんな簡単に消せるはずないと思ってる。
ううあああじゃああの目茶苦茶甘ったるくなった東屋さんは一体何?!
お布団の中で汗だくになりながら、その夜は疲れていたはずなのに殆ど眠れず、翌朝がやってくる。
チェックアウトに集合したロビーで、私の目の前に突っ立って愕然としているのは、糸ちゃんだ。
「い、糸ちゃん?おはようございます?」
「ひとちゃん……」
「うわっ?」
がしっと正面から両肩を掴まれた。
なんかちょっと涙目?な目線が、私の目線とは少し斜め下を覗き込むようにしている。
「な、なに? 糸ちゃんきもちわ……怖いよ?」
「俺てっきり、玉砕して戻ってくるかと……その時こそ……今キモチワルイ言った?」
「え? 言ってないけどコワ、」
コワイ、と言い終わらないうちに糸ちゃんの背後から頭をがっしりと鷲掴みした人がいる。
驚いた糸ちゃんの手が、私の肩から離れた。
「東屋さん」
「糸井。お前近いんだけど」
「うおっ」
剥がされるように後ろに引かれて、糸ちゃんが後ずさる。