恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
「お前! 手、早すぎ……」
「煩い。お前こそまた姑息なこと考えてただろ。だからモテないんだっていつになったら悟るんだよいい加減勉強すれば」
冷ややかな目で畳みかけられ、糸ちゃんがすごすごと後ろに下がる。
すっかり撫で肩になっちゃってるのがちょっと可哀想……と思ったのだが東屋さんはまるきり無視だった。
「今日は髪結んでるんだ?」
「外見たら風が強そうだったから……変ですか」
東屋さんは、全くいつも通りの顔で、だけど今までなら絶対気にしないような私の髪型のことを口にするから。
なんだか、物凄く気恥ずかしくて、私の視線は定まらない。
その上。
「いや? 可愛い」
「え」
「けど、もうちょいこっちで結ぼうか」
至って平然と、まるで普段からこんな接し方をしているようにナチュラルに私の結んだ髪に触れて、少し斜めに寄せて左の首筋から髪を前に流した。
なんで、と考える余裕は頭にはない。
こんな人前で、ごく当たり前みたいに何を、とそのことばかりに気が向いて、ぼぼっと顔どころか身体中熱くなる。
し、視線が!
周囲の視線がぎゅうっとここに集まってる気がして、汗が噴き出してくる。
「あ、あのっ!」
「何?」
「な、なにって……皆、見てますから……あの、」
東屋さんの斜め後ろで、糸ちゃんがこっちをガン見しているのが見えた。
多分、私の後ろでは促進課の皆が見ているはずだ。
「うん? なんかまずかった?」
「え、や、だって……」
東屋さんの顔をまともに見られない目は自然とあちこちを見てしまうわけで……って。
ひぃ!
池内さんがめっちゃ見てる!
焦る私を全く気にせず、東屋さんは至ってマイペースだ。
「何挙動不審になってんの。それより今日は? 途中の観光どうするの」
「あ、西原さんと柳原さんが一緒に回ろうって」
「なんだ、そうか。残念」