恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
「……まあ、一花さんがそう言うなら。私はその首筋の経緯も聞きたいし?」
そう言う柳原さんは、にや、と笑いながら私の髪の結び目を見た。
「さっき東屋くん、慌てて隠しに来たって感じだったよね。一花さん普段髪下してるから」
「え?」
「え? ってわかってないの? ってか、わかってたら隠してくるか、普通」
見てみ、と柳原さんがバッグから小さな折り畳みの鏡を出してくれた。
結び目の辺り、と言われ、少し角度を変えると赤く変色した肌が見えた。
「わ、やだ」
昨日、夜に木の多い場所にいたからだろうか。
でも、何かに刺されたような痛みも痒みもなんにもないんだけど。
「夜に外に出たからでしょうか。虫が多かったのかも」
「え、本気で言ってんの? ってか外に出て何してたのよ」
「ちょ、望美、もういいじゃないそれ以上追及しなくても」
とにかく楽しそうな柳原さんだが、どうしてか西原さんはちょっと頬を染めて気まずそうに窘める。
外に、出て。何してたかって。
そうしてまた、俄かに肌が、思い出すわけで。
そこまで思い出して、やっと私はある答えに思い至り、絶句して柳原さんに鏡を返す。
これ以上ないくらいに顔は真っ赤だろう、おまけに涙目になった私に、また柳原さんににやっと笑われ頭を小突かれた。
は、恥ずかしい。
東屋さんの馬鹿。
赤くなった場所が、昨夜東屋さんが何度もキスを落とした場所で。
赤く散ったそれが、どうやら初めて見るキスマークらしいということに、私は漸く気が付いたのだった。