恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
迷いなんか、最初っからどこにもない。
ただ、皆がまだ居る状況で、近寄ってもいいのか考えて、キャリーバッグを引く手が止まる。
だから一歩出遅れた。
「東屋さぁん! 今夜こそ飲みに行きますよ!」
「うわっ」
どすん、と東屋さんの背中から池内さんが突進した。
「お前、大概めげないよな」
「えへへ。いいじゃないですかぁ。今度こそ逃がしませんよ」
挑戦的な瞳で東屋さんを見上げる、彼女の視線が少し、私を意識してるのがわかった。
わざと見えるように、腕に絡みついて胸を押し付けていて。
ぱ、と頭に浮かんだのは、昨日彼女の腰に添った、東屋さんの手。
絶対嫌だ、そんなのもう見たくない。
そう思った時にはもう、足が勝手に動き出していた。
「あ、あのぅっ」
自分の上擦った声で、はっとする。
勢いよく飛んできて、今目の前には驚いた顔の東屋さんと池内さんが居て。
私はしっかり、反対側の腕の袖を握ってしまっていたりする。
恥ずかしいけど、それよりも酷く焦って東屋さんを連れて行かれたくないって、完全に先走っていた。
「わ、私と今日は、約束してて!」