恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
よ、良かったのかな?
二人の間にある手は繋がれたまま、それぞれ反対の手でキャリーバッグを転がす。
ころころころ、と少し急ぎ足の音。
彼はもう何もなかったかのように、二人で帰るのが当然のように言葉を紡ぐ。
「飯、何か食ってく?」
「いえ、お腹はなんか全然空いてなくて」
「だよな。うちの社員旅行、とにかく食事だけは良いもん腹いっぱい食わすから」
確かに。
食事は全部美味しくて、食べきれないほどの量をこの二日間。
その蓄積もあって、とてもじゃないが夕飯は食べる気にならない。
「じゃ、まっすぐ俺の部屋でいいか」
はい、と返事の声が思うように出なかった。
心臓が、痛いくらいに早くて。
顔が赤く火照って行くのを感じながら閉口して俯くと、東屋さんがふと足を止めた。
「なんか一花が大人しいと気持ち悪い」
「なっ、その言葉そのままお返しします」
「俺はいつもと変わんないだろ」
しれっとした顔で、嘘ばっかり言う。
いつもと全然違うよ。