恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
ううう、どんな顔すればいいかわからなくて、それで逃げ出してきたというのに、朝一番で二人っきりになっちゃうなんて。
「ああ、そうか。それは仕方ないけど、なんで帰ったの。朝起きて居なかったら心配するだろ」
「でも、置手紙はしておいたんですけど……。出勤の用意もあったから一度帰らないといけなかったし、東屋さんよく寝てたから疲れてるのかなって」
「そういう問題じゃない」
くん、と指で顎を上げられ、強制的に上向かされて目が合えば。
彼は口調に違わず、少し怒っていた。
「え、でも。一人でも帰れるし、」
「でも心配するし、あんな朝方に出てったら危ないだろ」
そ……ういう、ものだろうか。
昨夜寝てしまったことで何かチクチク言われるかも、とか思っていたけど、全く別のことで真剣に怒られて、少し驚いていた。
すると、彼も何か変な顔をする。
「今までそれで当たり前だった? これからはそういうことすんな。俺、大事にしたいって言わなかった?」
きゅ、と胸が苦しくなるようなことを、真正面から見つめられながら言われた。
ど、どうしよう、朝から東屋さんが怒りながら甘いです。
目が白黒になりながら、あわあわと唇が動く。
「い、いわ、言われました、でも、」
「じゃあもう勝手に帰らないでちゃんと起こして」
「でも、もう明るくなりかけてたし、」
「でもじゃない。返事」
「はいっ」
それで漸く納得したのか、溜息とともに眉間の皺が少し緩む。
な、なんか混乱する。
表情はいつもどおりなのに、言葉遣いもそうなのに、言われてる内容は甘いというか過保護というか。
そして彼は、そうすることが当たり前のように、上向かせた私の頬に手を当て親指で目の下を擽った。
「身体疲れてない?」
「だ、大丈夫ですたくさん寝たから……て、いうか、たくさん寝ちゃって、すみません」
ぽ、ぽ、と発火するように熱くなる顔は、きっと東屋さんの手のひらにも伝わってしまっている。