恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
そして言わんとしたことも伝わったんだろう。
和らいだ表情に、昨夜を思い起こす色香が混じる。
「よく寝てた」
「す、すみませんっ……前の日ほとんど寝れなくて、」
「謝ることないだろ、眠れて良かった。……最初っから味見だけって言ってたし」
それはそうかもしれないけれど、いくらなんでもあんな急にぱったり寝ちゃうなんて、自分でも信じられない。
なんでそうなったかっていうと、当然思い当たるのは記憶が途切れる寸前の、自分の身体の変化であって。
あ、だめ、今思い出すな。
今思い出したら、自分の精神状態が大変なことになる気がする。
蘇る昨夜の感覚を、ばしばしと手で払い落すイメージでかき消す作業に私の脳内は忙しい。
だけど、東屋さんの腕が、それを邪魔する。
「……まあ、寝てくれなかったらちょっと危なかった」
「え?」
話に紛れて、私の腰を抱き寄せた。
「あ、あの……もうすぐ誰か来ちゃうんじゃ、」
ああ、だめまずい。
顔をまともに見る余裕がない、だってあの唇がとか、どうしても考えちゃう。
だって。
朝、着替える時に自分の胸元を見て、驚いた。
こっそり見て喜ぶ、なんてどころじゃない。
今すぐにでも熱を呼び起こしてしまいそうに、確かに彼の熱の痕がいくつもそこに残されていた。
「まだ大丈夫だろ。ちゃんと朝飯食った?」
「あ、はい。ビスコ食べた……」
「……ビスコ?」
「うっかりパンを買い忘れてて」
あ。
うっかり正直に話したら、また眉間の皺が寄った。
色香溢れる表情もいいけれど、私はこの表情の方が見慣れてて案外安心するということに気が付いた。