恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
「西原さん、なんか乙女で可愛い」
「やめてよ恥ずかしい。あの時は、うん、ちょっと浮かれてもいたのよ」
「さよさんはそのままで十分ですよ。って、部長もきっとそう言ったんでしょう?」
東屋さんが、横から淹れたてのコーヒーのカップの一つに、手を伸ばす。
見上げると、穏やかそうに笑みを浮かべていた。
「あは………、うん、まあ、えっと」
「結婚式、ぜひ出席させてもらいます。これ、いただいていきますね」
照れまくる西原さんに片手に持ったカップを掲げてそう言うと、給湯室を出て行こうとする。
寸前、私の視線に気が付いた彼は、こん、と私の額を小突いた。
「……なんて顔してんの」
小声で、ぽそと囁いたあと、ぽんぽんと頭を撫でていく。
私は余程、心配そうな顔をしていたらしい。
ふと、思うことがある。
西原さんは、東屋さんがずっと吹っ切れずにいたことを気付いていたのだろうか。
もしも気付いていなかったのなら、さっきのキスや今の私達のやり取りだとかを見て、私に何か尋ねてきたかもしれない。
『付き合うことになったの?』とか。
だけど、彼女が選んだのは敢えて触れないことだった。
「一花さん、ここで飲んでく? デスクに持っていく?」
「あ、持っていきます。ちょっと整理したい仕事があって」
何も突っ込まれることなく、話は流れる。
失恋してもなお、彼女を見つめ続けた東屋さんに気が付かないふりをして、変わらず接することを選んできたのだろうと、勝手に推測をする。
私がしょぼくれていた時、『望美とか。遠慮なく、相談していいから』
と、そう声をかけてくれたのが、西原さんの精一杯の気遣いだったのかなと今にして思う。