恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
あの日の誘惑のことを責められれば、確かに軽率以外の言葉は見つからないだろう。


だけど、他の誰から見てそう思われても。
私は、少しも軽率なんて思っていなかった。


「だって……どうしても東屋さんに貰って欲しかったから」


他の誰にもあげられなかったものを、東屋さんには全部あげたいって思 った。
例え気持ちはもらえなくても、一夜の夢でも、関係ない。


「初めて心から好きになった人に、全部もらって欲しかった。それだけで、何もいらなかったから」


それ以上なんて、最初から望んでなかった。
だから今再び、あの夜に戻っても。


私はやっぱり、下着もつけずにあなたの胸に飛び込むだろう。
例え今日、あなたが気持ちを伝えてくれなくても、きっと同じことをした。


じっと私を見つめたままで、数秒。
東屋さんの顔が一瞬、泣きそうに歪んだ。


はあ、と熱い息を吐いて、私と額を合わせる彼は、やはり何か苦し気で。


「……ごめん、無理」

「え?」

「もう、無理。堪えたけど……お前可愛すぎ。無理」

「ちょっ、え? あの」



熱の上のうわ言のようで、どうかしたのかと本気で心配したのだけれど。



「……痛くしたらごめん。全部食べる」



早口で淡々と。
告げた途端に、彼の片腕が首の下を通ってしっかりと私の肩を抱きしめると、今度はもう、彼は止まることはなかった。


痛い、と悲鳴を上げそうになって、飲み込む。
代わりに彼の背に爪を立てた。


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