恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
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微睡の中、息苦しさに深く息を吸い込めば、しっとりと湿気を含んだ空気にふと、目が覚めた。
頭上から静かな寝息が聞こえる。
視界一杯の近すぎる人肌に驚いたけど、身体はぴくりともできなかった。
身体がぐったりとして指一本動かすのも億劫なのと、密着して絡みつかれた彼の腕のせいもある。
息苦しいのは、強く抱きしめられたままな上から冷房の風から守るようにすっぽり布団を被せられているからだ。
まだ、眠い。
けど、ちょっと苦しい……。
顔を上げて金魚みたいに息を吸おうとすれば、ぐっと後頭部を抑えられてまた東屋さんの胸板に密着させられた。
同時に擦れた、少し寝ぼけたような声が響いてくる。
「どうしたの」
「少し、苦しい」
「ん」
意味を悟ったようで、私の頭を抱き込んだままではあるが布団を少し下にずらしてくれた。
それからすぐにまた、寝息。
寝ちゃったのかな、と再び顔を上げようとすれば、やっぱり彼の腕に阻まれぴったりと抱き直される。
私が離れたがっていると、思ったのかもしれない。
「だめ」
「え?」
「お前、いなくなるからダメ」
ぐ、っと片腕に頭を、もう片腕に腰を抱き込まれて殆ど身動きできないまま、聞いた。
初めて東屋さんの腕の中で眠って、朝方逃げ出した日の再現を警戒されてるのだと気付く。
頭上ではもう寝息が聞こえ始めていて、今の言葉が寝ぼけながらのものだとわかると、驚きと同時に嬉しくて泣きそうだった。
寝ぼけながらでも、離したくないと思ってくれる、僅かな私の動きで気付くほど。
ほぅ、と胸があったかくなって、少し苦しいけれどそのまま大人しく抱かれていることにした。
今夜はとても、例え逃げたいと思ったところで逃げ出せそうにないけれど。
何しろ、身体中がだるくて痛くて。
足の位置を変えるのすら、億劫なほど。
だけどこんなにも幸せな痛みはないと、優しく拘束してくれる体温に身を委ね、再び目を閉じた。