恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
幸せを知るということ


くったりと泥のように眠った。
ふかふかの柔らかい枕に重たい頭がずっしり沈んで、少しも持ち上げる気にならない。


頭の中は、徐々に覚醒し始めて、私の髪をゆっくりと、そっと撫でる指の感覚に気が付いた。
なんだか、以前にも感じたことがあるような、心地よさ。


その指の持ち主が誰であるかは、ちゃんとわかっているけれど、それをやっぱり目で確かめたくて、重たい瞼を漸う開ける。


ふあっ!


思ったよりも至近距離で私の顔を覗き込んでいたらしい。
視界一杯、すぐ間近でばっちりと視線が合った。


同時に、髪を撫でる指も止まってしまった。


「おはよ」

「お、はようございます」


照れるでもなく、東屋さんの顔は無表情。
私の方は、目が合った途端に昨夜の出来事を思い出して顔中熱くなる。


「あんまり起きないから、心配した」


茹蛸の私を揶揄うでもなく私の髪をゆっくりとかき上げ額に口づける彼は、昨夜の延長のように甘く、優しい。


「ごめんなさい、熟睡してた」

「いいよ。なんか飲む?」

「はい。喉乾いて、痛い」



口の中が乾燥して、なんだか咽喉が痛い。
ん、と少し喉を鳴らしながら、上半身を起き上がらせる。


よくよく見れば、東屋さんはもう服を着ていてベッドに寝転んでいるのは私一人だ。
そのままベッドから降りようとしたのだけど、私は裸のままだと気づいて慌てて布団で胸元を隠す。


彼は、ベッドの宮に大きなクッションを当てて背凭れになるように整えてくれて、再び私の顔を覗き込み労わるように頬を撫でた。



「まだここにいて。持ってきてやるから」



余りの甲斐甲斐しさに戸惑いながら頷くと、東屋さんは一度寝室を出る。
ふと、窓のカーテンの隙間から差し込む光が目に入り、時計を探して視線を巡らした。

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