恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
彼がフライパンを流しに置いて、オムレツの乗った皿を両手に持つ。
「ほら、紗世も腹減っただろ。早くテーブルに……」
そこで漸く、真っ赤になって閉口している私に気が付くわけだ。
ちょっと目を丸くした後、にっと意地悪そうでいて妖艶に、彼は笑う。
「何、赤くなってんの」
「だ、だってっ……」
「昨日の夜も、たくさん呼んだだろ」
両手にお皿を乗せたまま、腰を屈めて私の顔を覗き込む。
益々赤くなる私を、楽しんでいるに違いない。
確かに、昨夜。
熱を帯びた声で何度も、いつのまにか呼び名が『紗世』に変わってた。
「これくらいで赤くなってて大丈夫?」
「だ、だって、慣れなくて、」
「夜を思い出して?」
「ち、ちがっ……!」
甘くなっても東屋さんの意地悪は相変わらず健在だ。
からかうだけからかって、ふいっと屈めていた腰を伸ばすとテーブルへ向かおうとする。
その彼のシャツを掴んで引き留めれば、不思議そうに振り向いた。
「何?」
「か、彼女、って」
さっき、彼女って言ってくれた。
それをちゃんと、確かめたかった。