恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
いっぱい、好きだと言ってもらえた。
肌でもたくさん、伝えてもらった。


だから、不安はないけれど、ちゃんと言葉で明確に出来るなら、ちゃんと聞きたいって思ってしまった。


どきどきしながら反応を待つ私を、彼は驚いた表情で見降ろし言った。


「……ずっと、そのつもりだった、けど」

「え?」

「じゃないと、気持ちの整理つけるまで待ってろなんて言わないだろ。……ああ、でもごめん。俺が悪い」


彼が、私に正面から向き直る。


「言わなくても伝わってるつもりだった、俺が悪い。紗世、俺と付き合ってくれる?」


両手にオムレツの皿を乗せたままの少し間抜けな状況での言葉だというのに。
そんな姿にも胸が高鳴ってしまう、私はちょっと変なのだろうか?


「って、かっこわるい! 皿くらい置かせろよ!」


まるで気恥ずかしさを紛らわすように、シャツを握ったまま離さない私に抗議する。
そして腰を屈めて、私の顔を覗き込んだ。


「で、彼女になってくれるの」

「は、はいっ……!」


私に、それ以外の返事があるはずもない。


「うん、よし。じゃあキスして?」

「ええっ!?」

「だって俺、手が塞がってるし、皿落としたら大変だろ」


ほらほら早く、と彼が意地悪な顔で急かすから。
私は背伸びをして、できるだけお皿を持ったままの彼に負担をかけないように、そっと、軽く、キスをする。


くすぐったいくらいのもどかしいキスしかできないまま、私は初めて自分からキスしてしまった歓迎会の夜のことを思い出していた。

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