恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
「あの時も、子供みたいなキスだったな」
唇を触れ合わせたままで、くすりと笑ってそう言った東屋さんも、同じことを思い出していたのだと知る。
以心伝心みたいで、少し嬉しい。
「私、あの時に東屋さんを好きだって自覚したんです」
懐かしいなあ。
まだ、それほど遠い話でもないのだけれど。
あの時は、好きだと自覚したと同時に失恋もしていたようなもので、今思い出すととても心が苦しくなる。
「だから、翌朝東屋さんにキスされた時、揶揄われてるってわかってたんですけどすごく嬉しくて」
嬉しかったけど、きっと軽い女だと思われたんだろうなと哀しくて、でもやっぱり嬉しくて。
でも、あの時はこんな風に大切にしてもらえるなんて、思ってもいなかった。
本当に幸せだなあ、と東屋さんの顔を見上げた。
すると彼は、なんでかすごく、バツの悪そうな申し訳なさそうな顔で固まっていた。
「東屋さん?」
「いや……悪かった」
「え?」
「……ごめん」
そう言って、今度は彼の方から、労わるようなキスをくれた。
私は嬉しかったのに、なんでそんなに気まずそうな顔をするのかわからなくて、首を傾げたけど。
やっぱり優しい彼が嬉しくて、ぎゅっとシャツにしがみついた。
もう、こんな風に私から抱き着くことに躊躇わなくてもいいのだと、また新しい幸せを発見して目を閉じる。
相変わらず彼の両手はオムレツで塞がっているわけだけど。
「……そろそろ飯食わない? 冷めるよ」
「はい。美味しそう」
言いながらもなんだかまだ、離れがたかった。
そんな幸せをかみしめて、キスマークの隠し方やオムレツの出来栄えを見るからに私よりも女子力の高そうな東屋さんの為に料理を勉強しなければならない問題などは、今は後回しにしてしまうことにした。