恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
拗ねたような声を出すけど、本気なのやらなんなのやら。
「いちいち揶揄いに来ないで仕事に戻ってくださいよ」
私の手元には、マグカップとグラスが半々くらいで並ぶ。
マグカップにだけ、出来たばかりのホットコーヒーを注いでいく。
グラスはアイスコーヒー希望の人用だ。
この時期は希望が別れるから、ちょっと手間がかかる。
「今休憩時間じゃん。それに揶揄ってないし俺本気ー」
「嘘ばっかり。旅行の時はいちいち池内さんのこと実況中継したりして、あれって煽ってくれたのかと思ってましたけど」
「さっさと玉砕しちゃえばいいのにと思って。そしたら諦めつくじゃん」
「……最悪です」
「ひでー。これでも心配してんだよー。だってさ、つい最近だよ? 西原さんの妊娠と結婚の報告聞いて、その後営業の飲み会で酔いつぶれてさ。あれからまだそんな経ってねーのに、まさかほんとにひとちゃんにいくとは思わなかったなー」
ぴくっ、と手元が揺れて、少しだけコーヒーが零れてしまった。
「そうなんですか」
別に、気にしない。
東屋さんが西原さんを好きだったことなんてずっとわかってることだし、今はちゃんと好きだって言ってもらえてるし。
でも。
「西原さんも、東屋には話しておかなくちゃって思ったんだろうな。俺、それ偶然聞いちゃったからさ、だからその後の飲み会でつぶれたの見て、ああ、やっぱショックだったんだろうなー、て」
「東屋さんがつぶれたとこ、見たことないです。それっていつ頃のことですか?」
「えー? いつだっけ。五月頃だったかな」
やっぱり、とちょっと思い当たることがあった。
春日住建にふたりで出張に行って、帰りにイチゴ狩りに連れていってもらった時だ。
あれより、ちょっと前の出来事なんだろう。
「ま、ひとちゃんに救われたってことなんかなー。いつまでも想ってたって、西原さんは居なくなるわけだし」