恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
「えー……と、絡みに、というか……そんな大したことはないけど、ちょこちょこと」
なんと答えればいいのか迷った。
口説かれてる、というわけでもないしどう説明すればいいものかわからなくて、口ごもる。
だって東屋さんだって、いつまでも西原さんのことであれこれと言われても困るだろうし、と思って。
だが、しどろもどろな様子が逆に東屋さんに変に懸念を与えてしまったみたいで。
「大したことないけど何。言葉濁さないといけないようなこと言われるの?」
「えっ、いや……あ!今日は海に誘われました」
「あいつもっとシメときゃ良かった」
ふつふつっ、と額に青筋が浮き上がる。
そんな様子に、私は申し訳ないけども逆に口元が弛んで来てしまう。
こんな風に、独占欲をちらちら覗かせる東屋さんに、まだちょっと慣れなくてくすぐったい。
私は手に持ったままだったトレーを流し台に置くと、そろそろと東屋さんに近づいて正面から抱きついた。
「……何、嬉しそうな顔してんの」
「えへ。ちょっと充電中です。あ、海のお誘いは断りましたよ」
「当たり前」
「でも東屋さんと行きたい、かな、と思って……海」
抱き着いたまま上を向くと、まだ少し憮然としていたけど幾分か和らぎ始める。
「海?」と首を傾げながら、スケジュール表でも思い浮かべているのか少し目線を上に向けた。
「あ、勿論、忙しそうだしお疲れなのはわかってるので、行けたらいいな、ぐらいで……」
「いいけど、宿とか今からじゃ難しそうだなと思って」
「え」
「日帰りでもいいけど、ちょっと強行だよな。どうせ海行くなら綺麗なとこ行きたいし」
「あー……そうですよね」
海水浴シーズン真っ只中、確かに今から宿泊を考えるのは難しそうだ。
水の綺麗な海水浴場まで行くとしたら、それなりの遠出で考えなければいけなきだろう。