恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
やがて、蜜の気配と共に、熱い吐息と私の喘ぎだけが空気に残る。
もう、私の身体に彼が触れてないところなんて、きっとない。



「紗世、すきだよ」



身体を繋げる時は、必ず名前を呼んで、目を合わせてくれる。
名前の響きは同じでも、貴方の視線の先にはちゃんと私が居るのだと、安心できた。


身体中至るところが溶けて体温が混じり合う、彼の腕の中はとても幸せで。


絶対に失いたくなくて、私はその幸せの中に、解決できない不安の種を埋めた。


……西原さんがもしもまだ、退職せずにオフィスに居たら。私たちはどうなってただろう。


もしも、なんて考えても仕方ない。
答えを求めても仕方ないことを、再び掘り起こされないように。



「東屋さん、すき」



首筋にすがりついて、彼に身体全部預けて、拙いキスで気持ちを伝えること。
彼の気持ちを精一杯感じることが、私に出来ること。


この幸せの中に埋めてしまえば、いつか笑って話せるような過去になるのだ。
私はそう、信じてる。


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