恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
「海の家で更衣室貸してくれるから、先に着替えといで。パラソル借りて場所探しとく」
「いいんですか?」
「いいよ。でも迎えにいくまで海の家から動くなよ」
「え?」
「絶対迷子になるだろお前」
真面目にそう指摘すると、紗世が少しくすぐったそうに照れ笑いする。
いや、褒めてないし真面目な話だから。この人が多い中、もしもはぐれてしまったら、携帯があっても探すのは大変だ。
「じゃ、着替えてきます」
「終わったら電話して」
「はい!」
ぴょん、と跳ねていきそうな軽やかな後ろ姿を、若干不安を残しながらも見送る。
たかが、着替えて出てくるだけ、のことなのだが。
人の顔や道を覚えられないと彼女は以前から言っていたが、行動を共にすることが多くなれば、なるほどと納得させられるシーンは多々あった。
まず、更衣室は狭いし出口で迷うことはないだろうけど。
出て来てそこから一歩も動かなければ、俺が捕まえられるし大丈夫だろう。