恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
ずんずんずん、と砂浜から離れていく。
「あ、東屋さん、もっと深いとこまで?」
「浮き輪引っ張ってやるから足浮かしてれば」
そう言うと、前方に凭れ掛かるようにして浮き輪に身体を預ける。
少し乱暴に引いてやれば、きゃっきゃとはしゃいで本当に子供みたいだった。
「あれっ? 待って、いつのまにかほんとに足つかなくなった!」
「だろうね。今俺の肩ちょい下くらいだし」
ここまで来ると、子供が少なくなって少しは静かになった。
離れたところではしゃぐ子供の喧騒と、波の音が聞こえる。
彼女の浮き輪に俺も両腕を預けて少し体重をかければ、簡単に沈みかけて慌てた彼女が俺の肩に掴まった。
「待って、ほんとに届かないですって!」
「紗世、泳げないの?」
「いえ、泳げますけど……普通くらいには。東屋さんは?」
「俺もうまくはないけど普通に。でもまともに泳いだのって高校の時くらいだろうな」
「ですよね、大人になると泳ぐ機会なんて中々……バタフライはもうできないだろうな」
バタフライって。
普通できないだろ。