恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
「水泳習ってた?」
「小学生の時だけ!」
「だよな、普通バタフライは出来ないよな」
「中学生くらいまでは出来ましたけど……ちょっとやってみま」
「やめろ」
つい語尾に被せてしまった。
ビキニでバタフライとかあほか。
そこまで本気の泳ぎを見たい訳じゃない。
「かっこいいのに」
「わかったわかった。俺が溺れたら助けてもらお」
「カナヅチですか!」
「違うって」
ぐん、とまた浮き輪に体重を乗せたら、彼女がまた沈みかけて慌てて悲鳴をあげた。
「ほんとに泳げんの?」
「急に沈んだら怖いだけですっ、もう、海水飲んじゃったじゃないですか」
互いが浮き輪に身体を預けていて、額がぶつかりそうなくらいに顔を寄せ合う。
こんなに暑いというのに、どうしてこうもくっつきたがるのか……お互いに、だが。
「あとでたこ焼き食べたいです」
「俺は焼きそばかな。海の家にあるよな」
「ありました!チェック済みですよ。あとかき氷も食べたい」
「定番だな」
おかしなもので、何をするでもなく浮き輪に浮かんでふざけているだけで、無意味に楽しくてただただ心地よかった。
こんな他愛ない時間を過ごせるのはいつぶりだろうと思えば、とんと思い出せない。
ふと、幸せだと、そんな風に感じたことも。