恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
心と言葉と最大の敵
彼氏と旅行、なんて当然初めての経験だった私は、朝からずっと舞い上がっていた。
去年一度しか着れなかったお気に入りの水着を、可愛いと言ってくれるかなとどきどきしていたのだけど。
言ってはくれたけど、すごく険しい表情だった。
しかも何かとパーカーで隠されて、やっぱり私にはちょっと大人っぽかったのかもしれない。
もっと胸があったら、それなりに見えたのだろうか。
来年までにはちょっとバストアップ体操なぞしてみようかと思う。
水着のこと以外では、東屋さんはずっと私を甘やかしてくれて優しくて、優しすぎて、ふと思ってしまったのだ。
糸ちゃんが言ったみたいなことを、私が気にすることくらい東屋さんはわかってて、だから必要以上に優しいのかな、とか。
無理してないかな、とか。
私は、素っ気なくても東屋さんが優しいことはちゃんと知ってるから、無理して欲しいわけじゃないけど。
それとなく聞こうとしてやっぱり私はストレートに聞いてしまったわけだ。
東屋さんはちょっと変な顔をした。
なんでそんなことを言うのかわからない、そんな感じ。
どうして私はもっと上手く聞けないのか。
こんな風に聞かれたって、無理してるとは普通言えない。
「……優しくしたいから、してるだけだけど」
だからか、その言葉を無理矢理引き出してしまったような気がして、どんな顔をすればいいかわからなくなって、言葉に詰まった。
だけど。
少しの沈黙と、波の音。
キラキラ眩しい水面を背景に、東屋さんが不意に話を変えた。
「来年は、ちゃんと計画立てて来ようか」
「え?」
「旅行。来年も、その次も」
来年も、その先も。
一緒に居ようって思ってくれてる、そういう意味なのだと気が付いて、じんと目が潤んでしまうくらいに幸せだった。