恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
「結婚するって聞いた時、未だに衝撃を受けた自分に、どんだけ引きずるつもりなんだって心底うんざりした。そんなときに、嬉しそうにきらっきらした目で子犬みたいに懐いてくるのが居て」
ふ、と言葉の終わりに、声がたまらなく柔らかくなった。
抱きしめられてる私の頭の髪に、吐息がかかる。笑った気配だった。
「なんで笑うの……」
ちょっと頭を持ち上げる。
すると少し腕が緩んで、間近で彼と目が合う。
「いや、ごめん。たまらなく、可愛かったの思い出した」
なんとも言えず優しい苦笑いで、彼は片手は私を抱いたままもう片手で私の頬や額に張り付いた髪を撫でて避ける。
「……でもすごく、冷たかった。優しい時もあったけど、近寄らせてくれなかったり」
「……だってお前、彼氏居たろ」
「あ……」
「あー……いると思ってた、か」
そうだ。
私が別れたことを言ったのは、本当に随分後になってからで。
「ごめんなさい」
「いや。早く聞いても、俺の方が整理出来てなかったよ。下手したら……」
「下手したら?」
尋ね返せば、彼は困ったように首を傾げて笑った。
秋に近づく夜、青から黒へと近づく瀬戸際の空、彼の後ろで漸く外灯の光が際立ち始める。
「整理もつかないまま、手を出してたかもな、と思って。急速に頭の中に割り込んで存在感を増してくる新人がさ。たかがイチゴのチャームくらいであんだけはしゃいでくれるような奴、可愛くて当たり前だろ」