恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
驚いて、目を見開いた。
彼の言葉が、あのいちご狩りの頃から少しずつ、私を意識してくれていたのだと、そういう意味に聞こえる。


「紗世は、自分は西原さんに敵わないって言ったけど、そんなことはないよ」

「え?」

「お前ってさ、目や表情でビシバシ好意を飛ばしてくるくせに、俺の気持ちは強要しなかった。傍にいたいとは言っても、西原さんを忘れて私を見ろ、とはただの一度も言わなかった。ひたすら自分の『好き』だけを俺に送ってきて俺の感情を否定しなかった。そんなとこに俺は救われてた」

「だってそれは。東屋さんの、気持ちだから。私が左右することじゃ、ないと思ったし」

「そうだね。でも俺には出来なかったことだ」


ざわ、と風で木が揺れた。
今夜は満月らしい。

雲が晴れて、月明りが私たちの周囲を照らす。
はっきりと、間近に見えるその表情をもっと見ていたいのに、また涙で視界が歪む。


「強い子だなと思ったら、それ以外の弱さを全部守ってやりたくなった」


私のことを語りながら、綻ぶ彼の表情は、いつも横顔でしか、見れなかったもので。


「初めは、西原さんと紗世、どちらが好きかと言われたらきっと何も答えられなかった。だけど今なら迷いない。結論がないままじゃ中途半端に抱くことも出来なくて、キスだけで束縛するほど誰にもとられたくない。俺が翻弄されっぱなしなの、わからない? 伝わらないか? そんなの、理由なんてひとつだろ」


ふわ、ふわと花びら舞う。
彼の首筋に正面から縋り付いた。


「……誰よりも、紗世が好きだよ。だから離れていくなよ」

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