恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
ぐす、ぐすと泣きながら待ったけど、彼からの返事がなかなかなかった。
「東屋さん……?」
不安になって顔を上げれば、東屋さんの腕が緩む。
少し身体を離してみれば、彼の顔は真っ赤になって眉根を寄せていて。
私が呆気に取られてみれば、彼は慌てて片手で顔を覆って隠した。
「な、なんでそんな顔するのっ……?」
「いや、ちょっと待て」
「何、やっぱりまだ……」
「違うって。まさかそんな顔あのふたりに晒してたのかと思ったら情けなくて」
顔を背けて額を手で覆って項垂れる。
本当に耳まで真っ赤で、触れている腕や手から伝わる体温は熱かった。
「え……ふたり?」
「そうだけど? お前がいると思って入ったら藤堂部長とふたりでいちゃつきながらコーヒー淹れてて、呆れた。からかってやろうかと思ったのに、逆に散々からかわれて根ほり葉ほり聞かれて」
てっきりふたりきりなんだと思ってた。
だけど確かにあのときの私は冷静とは言えなかったし、半開きになった戸からわずかに覗いただけで、東屋さんしか見ていなかった。
西原さんのことも声で確認しただけだ。
「聞かれたって、何を」
藤堂部長と西原さんに、一体何を話せばこんな表情になるのか。
ここまで狼狽えた彼を見たのは初めてだ。
そして言いづらそうに絞り出された言葉に、私は目を瞬く。
「だから……俺らのことだよ」
「え?」
「俺と紗世のことだよ」
念押しのように重ねられた。
観念したのか、むす、眉を寄せて私を見る。赤く照れた頬のまんまで。
すう、と胸のつかえがとれて、霧が晴れるような感覚。
「わ、私とのこと?」
「そうだよ。くそ。冷静になったら恥ずかしくなってきた」
私とのことを、あんな幸せそうに話してくれたの?
あんなに、嬉しそうに。