恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
上半身裸の彼が、私の顔の横に手を突いて天井を背に見下してくる。
もう何度も抱かれているけれど、やっぱり今でもドキドキしてしまう。
「あ、東屋さん?」
「それ」
「え?」
「糸井のことはやたら親し気に呼ぶくせに、なんで俺はいつまでも他人行儀な呼び方のまま?」
は?
と表情が固まった。
だってまさか、そんなことを気にしているとは思わなかった。
いきなり仏頂面の理由がそれ?
今までそんなに気にする素振り見せたことなかったから、本当に私には唐突に思えた。
だけど彼は、至って真剣なようだ。
「あ、あの……糸ちゃ、い、糸井さんのは別に、親しいっていうよりいつのまにか定着しただけというか」
「別にいいよそれは、好きに呼べば。で、俺は?」
「えっ? あ、東屋さんもなんか、それですっかり定着してしまっててなんか、その」
「結構、待ったんだけど。まさか知らないってことはないよな」
「し、知ってますよもちろん!」
東屋一貴さん。
かずきさん。
ぎし、とベッドが軋む。
彼が肘をついて、その手で私の髪を撫で、額や鼻にくすぐったい程の優しいキスをする。
「紗世」
ああ、これは。
名前で呼べ、と催促されているのだ。
勿論、嫌なわけじゃない。
ただ、改まると物凄く、気恥ずかしい。