恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
営業課のオフィスフロアは五階。
エレベーターを上がってすぐだから、それは多分問題なく大丈夫。
左隣にミーティングルーム、トイレのマークが廊下の一番奥に見えたから多分そこ。
後で、ビルの間取り図があれば入手しよう。
さっき、東屋さんの隣にいた人が、糸井さん。
中肉中背、黒髪短髪、目が細くて眼鏡あり。
問題は次だ、藤堂部長と東屋さん。
どちらも背丈180前後くらい、眼鏡なし。
わかりやすい印象が綺麗な男、だけでは次に会った時にどっちがどっちかわからない可能性がある。
あ、若い方が東屋さん。
並んでくれたら判別は付きそうだ。
「……ちょっと。何をメモ取ってんの」
藤堂部長と東屋さんは綺麗な男、と書いている途中で突っ込みが入った。
当然だ。
「私、かなりの回数重ねないと覚えられないんです。視覚情報の記憶力が弱くて」
「ああ、覚えるの苦手?それにしたって」
「顔だけじゃなくて、道とかも全部です。視覚からの情報を記憶するのが難しいらしくて、子供の頃は発達相談にも通ってまして」
発達相談、という言葉を使うと、結構みんな反応に困る。
だからあまり使いたくないのだけれど、説明するにはこれが一番伝わりやすいから仕方がない。
別に其ほど大袈裟なことでもない、と私は思っているのだけど。
記憶経路に気を付ければいいだけの話だから。
どうしても目で見たものでは一度や二度では記憶に残らないから、最初は人の特長などその場でチェックして、データで覚える。
明日、社内で中肉中背短髪黒髪眼鏡ありに出会ったら、それは糸井さん、ということだ。
逆に、綺麗な男としか認識できなくて特徴を掴めないままの藤堂部長と東屋さんの場合だと、身長180前後の綺麗な男が10人並んでしまうとどれがどれやらわからない。
綺麗な男が、10人。
考えただけで眼福ものだけど。
イケメンって案外、わかりやすい特徴を見つけにくかったりするんだよね。