恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
何度も会えばその内ちゃんと、映像で記憶に残るのだけど。それまでは覚えたデータで判別するだけのことだ。
いちいち変なシーンでいきなりメモを取ったりするので、後から色々言われるよりは先に全部暴露しておこうというのが私の処世術だ。
「メモを取ってデータで覚えれば大丈夫です。すみません、お時間いただきまして」
って、急にこんなこと言われても東屋さんも困るだろうな。
彼からの反応が遅いので、メモから顔を上げてそう付け足す。
東屋さんは、顎に指をあてて少し考えているようだった。
「あの、大丈夫ですよ、ほんとに」
「仕事覚えるのに、必要なことはある?」
東屋さんの反応は、私の予測とは違っていて、一瞬戸惑った。
先に全部暴露するのは後の面倒を回避するためだけど、これはこれで弊害がある。
急に、その人の目が情け深いものになることが多いからだ。
大変だったね、とか。
何でも言って、助けるから、とか。
私はずっと、これで困ることなくちゃんとやってきているのに。
だけど、東屋さんの言葉は至極淡々と、現実に仕事に直面した場合の必要な対処を聞くものだった。
「問題ありません。特徴を捉えて言葉で覚えるのに慣れてます。その代わりに耳からの情報は一度聞いたら忘れません」
「なるほど」
「後は、急にメモ取り出すことありますからそれを許容していただければ」
「わかった。じゃあ、その情報に藤堂部長より俺の方が若いっていれといて」
「オーケーです!それは気付いてました!」
なんだかちょっと、嬉しかった。