恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
淡々と、平静を装って東屋さんの傍まで来たけれど、心臓はどくどく鳴っていた。
自分が怒らせた相手に自分から近づくんだから、誰だってきっとそうだろう。
「お疲れ様です」
言いながら、拒否られる前に空いた隣に座った。
私の声によほど驚いたのか、こちらを見てぎょっとした。
反応も無いので、手に持ったビール瓶を少し掲げて見せる。
「お酌しに参りました」
ぽかん、と暫く呆けていたけれど、私がダメ押しのごとくビールの注ぎ口を近づけようとすると漸く反応があった。
嫌な顔をされないかと酷くどきどきしたけれど、東屋さんは手の中のグラスを空けて私の方へ差し出してくれた。
少し、手が震える。
ビール瓶の注ぎ口が東屋さんのグラスに当たって、かちんと音が鳴った。
ゆっくり注ぎながら、なんとか言葉を絞り出す。
「一か月、お世話になってありがとうございました」
「仕事だからね」
素っ気ない返事で、二の句が継げなくなり間が空いた。
いや、怒らせてるのはわかっているのだから、これくらいで怯んではいけない。
泡が溢れる直前で彼がグラスを、私は瓶の口を持ち上げる。
ぐい、とグラスを煽るその横顔を見ながら、ごくんと一度唾を飲み意を決して本題を口にした。
「……それと。さっきは、失礼なことを言ってすみませんでした」
「……さっき」
「あ、いえ、さっきだけでなく以前から色々と……」
というか普段から色々と。
ちょっと、東屋さんに馴れ馴れしく接し過ぎなのだ、だから調子に乗って恋愛にまで首を突っ込みたくなってしまうのかもしれない。