恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
……私。
本当に、何にも知らないで。
本当に、無神経なことを言ったんだ。
「すみません……っ、私、知らないで、」
「泣くなよここで」
決して優しくない、呆れた声でそう言われて、またしても緩み始めていた涙腺を引き締めようと目頭に力を入れる。
「でもそろそろ潮時なんだろうな。一花が気付いたならあの人だって気付いてるんだろうし」
いつまでも後ろめたく思わせるのもな、と彼は笑いながら言う。
どこまでも、『さよさん』優先の思考回路。
それが、尚更胸の痛みを強くする。
何か言えば泣いてしまいそうで、それ以前に言葉が見つからなくて何も言えなくなった。
だけどまだこの話を終わらせるつもりはなかったのに、許されるならもっと、東屋さんが話して楽になるならもっと、聞かせて欲しかったのに。
「ひーとーちゃーん! 全然帰ってこないから来ちゃった!」
東屋さんとは反対側の隣で、どすんと腰を下ろす音がした。
「……糸井さん」
「あれ? ひとちゃん元気ない?」
「いえ、そんなことは」
「東屋ー。お前一か月ひとちゃん占領したんだから今日くらい譲れよ」
糸井さん、たった数分離れてる間に、かなり飲んだのだろうか。
さっきより余計に陽気に絡み酒だ。
「勝手にこいつが寄って来たの」
東屋さんが、好きにしろとばかりに片手を振る。
確かにその通りだけど、わかってるのにちりちりと胸が痛む。
何だろう、今日は色んな種類の痛みに振り回されて、頭の整理が中々つかない。
つかないままに東屋さんの隣から動かないでいたが、糸井さんもここで飲むことに決めていたのか熱燗と猪口持参だった。
「ひとちゃん何飲む? 熱燗来たから持ってきたけど」
当然、猪口は二つ。