恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
「駅まで一緒に行こうか?」
「歩ける感じでもないんでタクシー呼びます。気にしないで、ほら。藤堂部長が待ってますよ」
「……わかった。じゃあ任せるね。一花さん、お疲れ様。今日はありがとう」
ぽん、と背中を叩かれる。
これに反応するべきか酔って意識がないフリをするべきか迷っているうちに。
ヒールの足音が、遠ざかって行ってしまった。
「……す、すみません、なんか」
「ああ……起きてた?」
「み、皆さんに誤解を招くような、感じになっちゃって、その……」
二人っきりになってしまい、この距離が急に恥ずかしくなって離れようとしたけれどやっぱり足元は覚束ないし動けば頭がぐらぐらした。
それに。
二の腕を掴む東屋さんの手が、離れない。
「……一花って、よくわからない」
離してはもらえないまま、難問投下。
わからない?
私もよくわからない、特にこの頃の、入社してからの自分がさっぱり。
「……男あしらうの慣れてそうなのに」
「それは、それなりに……」
素っ気なく可愛げなく対応してればその内消えてくれる。
今日は一人、しぶといのが居ただけで。
「の割にバカみたいに飲まされて馬鹿じゃない?」
「…………今馬鹿二回言いましたね。だって、東屋さんが……」
飲めって言うから。
いや、飲めとは言ってなかったっけ?
でも飲めと言われたのと同じ。
腕は掴まれたままだけれど、自力で立ってる状況でいると酔いが回ってぐらぐらと眩暈がする。
「全部計算だったらすごいね」
「え?」
「誘ってるようにしか見えない」
誘ってる?
私が?
頭が鉛みたいであんまり考えられないのに、更に難問が来た。
なんとか重たい顔を上げれば、東屋さんが私を見下ろしていて。
なんかちょっと、怖い。