恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
あ。
やっぱり、周囲に誤解されたことを怒ってるのかな。


「お、怒ってますか」

「何?」

「西原さんに、誤解されたでしょうか」


二人の声がアルコールに酔った頭に反響して、わんわんと響く。
すごく狭い場所に閉じ込められているみたい。


ここは往来なのに周囲の喧騒はすごく遠くにしか聞こえなくて、だからなんだか本当に二人きりのような気がした。


「……そういうのはもういいんだって」

「東屋さん?」


は、と短く息を吐いて自嘲するような表情は、少し眉を顰められていて笑ってるのに、苦しそう。


その顔は嫌い。


だけど次の瞬間、ふわ、と一転して綻んだ顔に、ひらひらと花びらの幻を見る。


「とっくに終わった話だって言ったろ」


ああ、さよさんを想ってる顔だ。
ちっとも終わってないって、表情がそう言ってる。


だけど彼女が振り向くことはないことも知っている、行き場のない笑顔。
寧ろ誤解された方が、彼女の気持ちを楽にできると東屋さんは思ってるのかもしれない。


「まあ、一花には迷惑だしもし誤解されてたら週明けには皆に、」

「迷惑なんてないです」


彼の言葉を遮った。
え、と驚いた表情の彼の胸に、手を添える。


「私は、東屋さんの横顔、好きですから」


もし私を隠れ蓑に、あの人を想い続けることができるならそれでいいから。
だから自分の気持ちを否定するようなことを言わないで。

その一心だった。

精一杯背伸びをして、それでも届かなくてネクタイを引っ張った。
くん、と彼の頭が下がって、唇同士が確かに触れ合う。


目の前に、彼の見開かれた綺麗な瞳がある。
その中に私がいた。


気付けば、キスをしてしまっていた。

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