恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】


どっちに向かって走っているのかわからない。
そもそも、道を覚えられない私が、今日初めて来た店から駅までの道を覚えられているわけがないのだ。


適当な場所まで逃げたら、携帯のナビを使えば駅までは戻れる。
今は、走れ逃げろと足に命令するのだけれど。


いくらも走らないうちに足がもつれてきてしまった。
それでもちょっとでも、東屋さんから今は逃げたい。


好きなんだと気付いてしまった。


私には、京介くんがいるのに。
だけどもう、気付いてしまった。


ぐらぐらと眩暈が酷くなって、遂に足が止まった。
走ったせいで、アルコールがまた頭を支配し始めたようで、さっきよりも酷い酔いで頭痛がする。


手近に見えた外灯に、ふらふらと歩み寄って両手で掴まった。
頭痛くて、気持ち悪い。


ずるずるとその場にしゃがみ込みそうになっていると、何やら男の人が話しかけてきたけど、もう何言ってるかよく聞こえない。


うっさい、さわんな馬鹿。
そう言って追っ払いたいのに、声が出ない。


その時、真後ろから私のお腹を抱えるようにして両腕が絡みついてきた。



「……お前、ほんとに質悪い」



ああ。
こんなに前後不覚になったって、あなたの声だけはしっかりと聞き取れてしまう、私の耳はなんて正直なんだろう。


好きなんです。
そう再び自覚させられて、私はぷつっと意識を飛ばした。

< 54 / 310 >

この作品をシェア

pagetop