恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
まさか。
と、思い至った直後。
私の後ろでベッドが僅かに軋んで揺れて、心臓が驚いて早鐘を打ち始める。
後ろにいる誰かが寝返りでも打ったのだろうと、嫌でもわかる。
私はその誰かとベッドを同じくしているのだと、嫌でもわかる。
後ろを振り向く前に、まずは自分の格好を確認した。
ちゃんと着てる。
ブラウスも襟元が少しだけ緩んでいるだけで、特にそれ以上の乱れもない。
スカートもストッキングもちゃんと履いていて、酔っ払ってここに寝かされたそのままの格好なのだとすぐにわかってほっとした。
いや、まあ。
さよさんloveの東屋さんなら、これ以上ないくらいに変な心配は無用なのだけれど。
おそるおそる、ベッドを揺らさないようにそっと起き上がり、振り向いた。
私に背を向けて寝転がるその人は、顔は見えなくても間違いなく東屋さんだった。
すぐにわかったけど、それでもやっぱり顔を確認したくてそおっと覗き込む。
真上から見える横顔は、少し前髪が乱れてていつもより幼く見える。
「走って逃げたはずなのに」
追いかけてきてくれたんだろうか。
結構、全速力で走ったような、気がするんだけど。
じっと端正な横顔を見下ろしていると、私の呟きに反応があった。
んん、と小さなうなり声に驚いて、私の肩がびくっと跳ねた。
「……走った、って。お前」
「え」
「五十メートルも離れてなかったけど」
起こしてしまったらしい。
ごろん、と東屋さんが仰向けになる。
真上から見降ろしていた私と正面から見合う形になって、私は慌ててベッドの際ギリギリまで下がった。