恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
叶わぬ恋、上等です
こぽこぽこぽ。
という弾けるような音と共に、コーヒーの香りが漂う。
「あっ、ちょ、西原さん。じっとしててくださいって」
「ご、ごめん。だってなんかくすぐったくて」
「ほら、ちゃんと目瞑ってください」
朝の給湯室、近頃私は、西原さんがコーヒーを淹れるのを手伝っている。
今朝はいつもより早く来て、ミルでコーヒー豆を挽くところから教わり、そのついでに挽き立てのコーヒーを淹れているところだ。
西原さんのコーヒーは評判良いけれど、まさかここで豆から挽いてるとは思わなかった。
それにしても、こうして間近で見ると。
西原さんって確かに顔立ちはシンプルだけどお肌つやっつやだ。
化粧品、何使ってるんだろう。
「はい! ぎゅって目開けてください、ぱっちり!」
「ん! こう?」
「もうちょっと、ぎゅーって瞼押し上げて!」
「……何やってんの?」
カラカラ。と引き戸の音がして、ほぼ同時に訝しむセクシーボイスも聞こえた。
今日も彼は、挽き立てコーヒーを飲みに少し早めに来たようだ。
「何って、アイプチです」
「何?」
「アイプチ。西原さんが、私の目がデカいから羨ましいって言うので、今そんなのいくらでも捏造できますよって。……はい、西原さん出来ましたよ片目だけ」
「わー、すごい。ほんとにデカくなった」
「もう片方自分でやってみてくださいね」
コンパクトを開いて目の大きさを確認し、感心している西原さんにアイプチを差し出した。
どうして朝っぱらからこんなことになっているかというと、つい先日のことだ。
女性社員の間で、来月六月にある社員旅行の話から手荷物の話になって、旅行中のコスメの話へ、そこからだらだらと普段のメイクの話になり。
「一花さんみたいにくりっとした大きな目、憧れるのよね」
という西原さんの一声がきっかけだ。
アイプチを買ったものの上手くできなくて挫折したとかで、私がレクチャーすることになったのだ。
「でもなんか、急に大きくなるのも恥ずかしい気がするね」