恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
つん、とそっぽを向き、それきり口を閉ざされた。
こうなると、貝のようなもので何も教えてくれない。
仕方なく諦めて、やがて始業時間となりいつも通り業務に勤しむ。
午前中は東屋さんに頼まれた書類作成と大量のコピーに追われ、午後からはそれらをセットして綴じていく作業をしようと、コピーした書類を抱えてうろうろしていた時だった。
当てにしていたミーティングルームから話声が聞こえ、ここが使用中なら資料室の長机でも借りようかとその場を離れようとして。
「……一花は別の仕事を抱えてるからとか、適当に言いますよ」
私の名前がはっきり聞こえて、思わず立ち止まった。
東屋さんの声だった。
「大きな契約だからな。わざわざ本部長から達示があるくらいだ」
「わかってますよ、しくじれないんですよね。だからってそんな要求にこっちが応じることないでしょう」
相手は藤堂部長の声だった。
盗み聞きはよくない、と思いつつ。
私と、その契約の話がどう関係あるのかさっぱりわからなくて、つい扉に近づいて耳をそばだててしまう。
「打ち合わせするのに一花を連れて来いって、理由がわかりませんよ。部長だってそのつもりないから俺にしか話してないんでしょう」
やっぱり詳細な把握は出来てない。
だけど、私を連れて来いと言われた、というそれだけわかれば充分だ。
こんこん、とノックをして返事がある前に扉を開けた。
「私、行きますよ」