恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】

反面、藤堂部長は涼しい表情を浮かべているものの、ほんの少し口角が上がっている、ように見える。


結局私が行く方が、迷惑になるのかならないのか?
私が気になるのはそこなのだけど、どうも話がうまく読めない。


あのぅ、と声を発しようとしたタイミングで、東屋さんが盛大な溜息を落とす。



「わかりました。契約取って、『何事』もなく連れ帰ってくればいいんでしょう」

「そうか。じゃあ頼んだ」



ちら、と東屋さんの目線が動く。
目が合って、びくっと肩が跳ねたけれど。



「それ。今日中だからな」

「わかってますっ」



私が持っていたコピーの束を指差してそういうと、ぷいっと冷たく背中を向けミーティングルームを出て行ってしまった。


首の後ろを掻きながらの広い背中に、うっかり見惚れていたのだが、ばたんと扉が閉まった音で我に返る。



「……あの。怒らせちゃったでしょうか」

「いや、心配してるだけだから気にしなくていい」

「心配?」



すっごい、眉間に皺寄せてたけど。
何の心配?


取引に逆に支障が出るのだろうか。
私また、余計なことをしてしまったのか。


だけど、藤堂部長が話してくれたのは私が思った心配とは少し違った。



「春日住建は、手癖が悪いことで有名なんだ。田倉建築士が取引先のメーカーの女性社員に手を出したって話は、頻繁に聞こえてくるらしい」

「え……」



ここまで言われれば、猿でもわかる。
余り深く考えてなかった、私が来いと言われた理由。


てっきり、足立さん経由で呼ばれたのかと思っていたけれど。

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