恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
「癖のありそうな人物だと業者会で東屋もそう思ったみたいだな」
「待ってください。なら、その上で私が行って尚且つ『何事もなく』帰ってくるのって……東屋さんには余計に迷惑じゃないですか」
「そうだな。ハードルは上がったな」
「だったら私、」
「ただ、この話は今回の取引だけでなく、先々の契約に繋げる為の足場づくりでもある。部長からも向こうの機嫌を損ねるなと釘を刺されてたんだよ。
それを無視して一人で行って、最悪失敗したら東屋の立場はなかったんだ。だから一花が行ってくれるのは決して迷惑じゃないんだよ、本当は」
言いかけていた言葉は飲み込んだ。
それってつまり、私が行くと言い出さなければ、東屋さんは社内で立場をなくすかもしれなかった、ってことだ。
「ただ、どうしても女性社員にはこの業界の嫌な一面を見せることになるから、一花にはまだ早いって思ったんだろうな」
「私の、心配だったんですか……」
あんな機嫌の悪そうな顔をしてすごく優しいなんて、反則だ。
ぎゅ、と胸の奥を掴まれたようで、泣きそうになって唇を噛んだ。
あんな怖い顔で、心配とか。
全然、気付けない。
知らないとこで、優しくされてた。
そんなの、ありがとうを言う機会すらもらえない。
多分、業者会の日も、私がその田倉さんって人を覚えていないのは、東屋さんが敢えて私と接触しないようにしてくれたんじゃないだろうか。