恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】

春日住建は、全国展開し始めたと聞いたからすごく都会の大きな社ビルのようなのを想像していたのだけど、ちょっと違った。


ただ、敷地はすごく大きくて三階建ての学校の校舎くらいの建物の横に、木材工房が併設されていて、大きなトラックが何台も停まっていた。
それから、大工さんらしき作業着を着た男の人を何人も見た。


地元での仕事は自社の職人、その他の地域は地元の工務店に仕事を卸して、自然素材を使用した住居『うらら』という商品を全国に売り出している。
と、いう足立さん情報。


その『うらら』の設計を主に手掛けてるのが、田倉さん。
言えば、春日住建では大事な建築士さん、ということになるけど。



「なんか業者会で見たのと雰囲気違うねぇ?」

「そうですか? 普段はこんな感じです」



『田倉さんの相手頼むな』


という東屋さんの言葉は、どうやら冗談ではなかったようで。
密室ではないにしても、私は今、田倉さんとふたりきりにされている。


「あの、私で良ければカタログの説明をさせていただきたいのですが……」

「ああ、いいよもう。東屋くんから粗方聞いてるし、そのカタログはうちに置いといて施主に見せて選んでもらうってだけのものだから」



長机の正面で、頬杖を突きニコニコと目の細い(糸ちゃん程ではない)中年イケメンを相手に。
カタログの話をさせてもらえないなら何の話をすればいいのか!



「やっぱ、若くて綺麗な子がいると華やかでいいねえ」

「はは……ありがとうございます」



いつもならわざと素っ気なくしたりとか好きなようにできるけど、相手が取引先なのだと思うと無下にもできない。
ましてや、東屋さんの取引に支障が出るようなことにはできない。


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