恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】

宿泊予定のビジネスホテルに一度チェックインして車を預け、タクシーで指定された料理屋に向かう。
そう、東屋さんが『後程』と言ったのは、やはり予想に違わず酒の席が用意されていたようで。


「向こうが用意した席だけど、立場的にはこっちが接待するようなもんだから。わかってると思うけど」

「わかってます。お酌くらいしますよ」

「そう? 良かった。私は酌したい人にだけ酌しますって言われたらどうしようかと思った」


あ。
あれ、聞こえてたんですね。
あれは糸ちゃん用のセリフで、いくら私だって取引先相手に言いませんよ。


「まあ、でも。本当に嫌なことがあれば我慢することでもないし、とにかく田倉さんには気を付けて。連れ出されそうになってもついてくなよ」

「え?」

「なんとでもなるから」


さら、とそう言って東屋さんは店の暖簾をくぐる。
慌ててその背中を追った。


……連れ出されるって、どういうこと。
あ、今までそういう手段で泣かされた女の人が多いってこと?


女好きなのかどうかそんなのは見た目でわからないけれど、今日話した感じではそこまで悪い人には思えなかったけれど。
人って見かけによらないのか、人間って怖い。


人間不信になりそうだと思えば気力も萎えていきそうだったが。



―――なんとでもなるから



そう言った目の前の背中だけは、頼もしくて、信じられると思えた。


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